いくつもの忘れられない笑顔があり、それを目にした時、ああ、この映画を見て本当に良かった、と思いました。そして、この笑顔を撮り得た河野和男にぼくは嫉妬しました。彼が幸福な映画作家だからです。この世には撮れば撮るほど不幸になる映画作家と、何を撮っても幸福になる映画作家の2種類がいると思うが、河野和男は間違いなく後者です。
ロングショットにこの作家の実力を感じました。
ラスト近くの結婚式のシーン、忍び寄るスナイパーが襲撃して逃げるまでのロングショットには特に興奮。グリフィスの『エルダーブッシュ峡谷の戦い』のワンシーンかと思った。
もし、いたら。
恐らく、この世のどこかに既に実在してしまっているであろう「オチコボレクローン人間」の生活を人間の視点で描いたサイエンス・フィクション。
監督は都内在住の販売員・河野和男(30)。これは無名の監督が撮った自主制作映画です。
もし、いたら・・・。
その妄想を持つ人は結構いると思うんです。しかし実在していると確信して、彼等への応援メッセージを自主制作する人間はそういないと思います。そんな事をするのは、恐らくこの監督くらいかな、と(笑)。
また、クローンを描いた映画はたくさんあると思うんですが、この映画はクローンの中でも「オチコボレクローン」にスポットを当てています。
映画に登場するクローンと言えば、大抵、必殺技の1〜2個は持ってるもんですが、この映画に登場する連中は何も持ってません。野球して、ギター弾いて、呑んで愚痴って・・・人間と全然変わりません。むしろ、人間より駄目だったりします。
それでいて何故かやたらテンションが高く、開き直りに近いくらい賑やかに生きてるんですよ。
テーマの深刻さと、その辺のギャップが笑えます。
そんな彼等の生活の合間に、社会的な問題やら、人間との関係を絡めて描いていく訳です。映像はヘロヘロです。セットとか全然お金掛かってなくて、所謂SF映画っぽさが全然しません。役者も全員「ズブの素人で〜す!」みたいなのが結集してて、そこが逆に光ってたりします。
最終的にどうなるかと言うと、クローンと人間のカップルが誕生し、遂に結婚まで漕ぎ着けるんです。
歴史的な瞬間な訳ですよ。
ところがどっこい。案の定、そこに人間が噛んでくる訳ですよ――過激な輩が。で、いとも簡単にピストルで全部ブチ壊してくれます(まあ見慣れた光景なんで、あんま驚かなかったですけど)。
とても悲しいラストですが、全体的には明るく前向きな内容です。微笑ましい映画です。
ただ僕の場合、「そういうラストだろうな〜」と思いながら見てたんで、笑うべきシーンで言いようのない寂しさが込み上げてくる訳です。
僕の目には、この映画は「未来への応援歌」ではなく「現在進行形のバラード」として映りました。
もし、いたら・・・。
きっと、こうなるだろうな〜。しかも、防げないんだろうな〜。と。
PS:これは僕の勝手な解釈なんで、全然そんな映画じゃないですよ。非常に明るい映画です。この映画「おもてとしひこの独映会」で、その内再上映されると思うんで興味持った方は是非。因みに、僕がカメオ出演してます。