※このレビューは、70年代日本映画研究会の「私の70年代日本映画ベスト10」“辻豊史の70年代日本映画ベスト10” へのリアクションとして書かれたものです。
「キタキツネ物語」は、僕が編集助手でついたこともある沼崎梅子さん(すでに死去)が編集された作品です。
とにかく何台かのカメラでものすごくフィルムが回っていて(それこそ何百時間みたいなことになる?)、それをいかに短期間で編集したか?大変な作業だったようです。
お涙頂戴の動物ものみたいに言うんだけど、こういうドキュメンタリーはそういう凄まじいプロの技術によって生まれています。
補足ですが、「キタキツネ物語」について沼崎梅子さんが編集というのはネガ編集です。
ラッシュの編集は間違いなく日本で最も優れた編集マン(多くの日活作品を手掛けて来た)鈴木晄氏によるものです。
ちなみに「悲愁物語」も鈴木晄氏の編集作品。
つまり、清順作品やロマンポルノを多く手掛けて来た編集マンの技術があってこそ、「キタキツネ物語」「南極物語」は生み出し得た作品なのだということは一応、認識しておいてほしいという気は僕はするのですが。
でなければああいうドキュメンタリーは生まれて来てない。
完全に擬人化しているわけではなく、ナレーションで擬人化している。
半擬人化とでもいう文体で、あれはやはり日活だからこそ生まれた作品ではあると思う。「ドキュメンタリー畑」からではなく日活の劇映画の現場だからこそ出て来たものだと思う。
だから必ずしも「転身」とは僕は思わないのです。
だって「ドキュメンタリー畑」のドキュメンタリーとは明らかに違うつくりのものだから。
さらに「南極物語」と同じ年の1983年の鈴木晄氏の編集作品を見てみると以下の通りです。ほとんどあきれてきます。
1983.02.11 ションベン・ライダー キティ・フィルム
1983.06.17 泪橋 人間プロ
1983.06.18 もどり川 三協映画
1983.07.16 探偵物語 角川春樹事務所
1983.07.23 南極物語 フジテレビジョン=学習研究社=蔵原プロダション
1983.11.12 居酒屋兆治 田中プロ
1983.12.23 女猫 にっかつ
基本的には僕はあまり蔵原監督についてはどうこうと語る立場の者ではありません。
「憎いあンちくしょう」でさえ見てないのです。すみません。
日活は僕は鈴木清順とロマンポルノに見て来た作品が片寄っていてここらへんが弱いんです。
だから「蔵原監督の演出」が日活を出てから以降の蔵原作品に見られなくなったということに対する思いが分かっていないところがあるのかもしれません。
ただ、それは端的に言って、蔵原監督が日活の社員監督でなくなったので日活のプログラムピクチュアを撮らなくなり、自らのプロダクションで別の傾向の作品を撮りはじめたということだと思う。
蔵原監督自身、自分が別の世界に転身したなんて意識は全くなかったはずだと思うのです。
日活を出たので今度は別のジャンルのものに挑んでやろうということだったのではないでしょうか?
フジテレビが資本だからといってテレビ的なものを撮ろうとしたわけではなかったはずです。
「キタキツネ物語」や「南極物語」は壮大な映画ならではのダイナミックなものをと目ざしたものであるわけで。スタッフもテレビの人達も参加してきたかもしれないけど、メインスタッフは撮影も編集も照明も映画界の人達を集めて作っているのです。
「キタキツネ物語」は昔、見たきりであるのですが、プログラムピクチュア出身の監督のものらしい構成の仕方の盛り上げ方の作品だったと思う。(子育ての話など。)テレビの動物ものとか、ドキュメンタリー畑の人達のものとは違うものだったように思う。
「キタキツネ物語」というのはそれまでなかったタイプの日本映画だったと思う。これがヒットしたのでこれを真似た作品がその後、続々と出て来たのです。
ただ日活を出て以降の蔵原監督は自分でプロダクションを立ち上げやっていたわけだから、役回りが主に演出面よりプロデューサー的な面に追われるようになったのかもしれない。
そのために演出面の方までに手が回らず、演出手腕の発揮に専念したかつてのプログラムピクチュア時代の作品とは傾向が違って来たということはあるのかもしれない。
なんか、あまり蔵原監督の作品を見てないくせに、勝手なことを延々と述べてすみません。
鈴木晄さんは本当にスゴイ人ですねえ。
私も名前は知っておりました・・・というか、私が観た大概の日本映画(70年代のみならず)の映画のスタッフのクレジットタイトルに名前が出てましたからねえ(笑)。
今、鈴木晄さんが編集を手がけた全作品のリストをざっと見たんですが、本当にスゴイですね。50年代から現在に至るまでもの凄い本数(431本)!!しかもその中には日本映画史に残る傑作がもう無数と言っていいぐらいにありますね。
70年代は神代辰巳(日活)、長谷部安春(日活)、西河克己(百恵映画)の作品を多く手がけられてますねえ(まあ、もう本数が多いので挙げたらキリがない)。
60年代は鈴木清順(『殺しの烙印』も!!)、蔵原惟繕、西河克己など・・・いやいや、鈴木晄さん、スゴすぎです。80年代以降もスゴイんですが。
ちなみに『赫い髪の女』(神代辰巳監督)も手がけていらっしゃいますね。
いやーこの人は欠かせない存在ですね。70年代日本映画研究をしていく上では。