面白い映画教えます

娘・妻・母

“道”ショットが最高気持ちいい

傑作「流れる」(56年)の女優陣のキャスティングには凄まじいものがある。田中絹代、山田五十鈴、杉村春子、高峰秀子、岡田茉莉子、そして栗島すみ子だもの。この作品については、今後触れる予定なので、ここではこれ以上は書かないが。

さて、「娘・妻・母」だが、こちらもオールスターキャストである。
家族3代の話だが、まず母親が三益愛子、そして同居している長男夫婦(現在の一家の家長夫婦)は、森雅之&高峰秀子コンビ。そして出戻りの長女が原節子。既に結婚して独立してる次男が宝田明、その姉さん女房が淡路恵子。嫁いで家を出ている次女が草笛光子、その夫が小泉博で、同居している彼の母親が杉村春子。現代っ子(死語)の末娘が“お姐ちゃん”団令子(合掌)。さらに原節子といい雰囲気になる堅物独身男が仲代達矢。原節子の見合い相手のちょっと怪しい中年男が上原謙で、一家の近所の公園で子供をあやす老人が笠智衆である。

しかし、私はこの作品がいかにオールスターキャストなのかを伝えたくて取り上げたのでは無いことに、こうやって書き終わってから気がついた。
1960年当時のオールスターだと言ったところで、それが成瀬の魅力を今伝えることには繋がるまい。

「娘・妻・母」に限らず、成瀬の作品を今観て最も快感なのは、なんといっても画面設計と編集のリズム。つまり、対象となる人物などを切り取るサイズやアングル、そしてそれをつなげていく時のタイミングなどが、とにかく気持ち良いということ。
ですから、私の場合、成瀬に関して言えば、極端な話もうストーリーやテーマや人物像なんて実はどうでもいいんです。あ、どうでもいいとか言ってはいけないんですね。ちょっと言い方変えます。

成瀬であれば、どんなストーリーでもテーマでも人物像でも、とにかくオールOKっす。
だから、最初から最後まで観なくてもOKなんですね。途中10分くらい観て終わりでももう満足。
どうせもっと観たくなるに決まってるんですが。
そういうことなんです。

もうひとつ、成瀬を観て、「これ気持ちいい」と感じるのは、“道”を撮った画面の気持ち良さ。

ここで言う「気持ち良い」というのはスカッとしたとかサッパリしたとか、爽快という意味での気持ち良さではなくて、むしろエクスタシ〜ッという気持ち良さです。
“道”を撮った画面でエクスタシ〜ッとは変態ですか?と言われましても、本当に気持ち良くなるんで仕方ないでしょう。
戦前、戦後通して、成瀬作品観て、これだけは変わらないですね。“道”を撮った画面の気持ち良さは。

成瀬作品にはいろんな“道”が出てくるんですが、広い道、狭い道、土ぼこりが舞うような道、ぬかるんでいるような道、陽射しのきつい昼の道、暗い夜の道、ロケの道、セットの道、どれもみんな気持ち良いです。
“道”にカメラを向ける時、どういう光線で、どういうアングルが一番気持ち良くなるのか、成瀬は熟知してますね。
なぜ映画を撮るのか? と尋ねられたら「そこに“道”があるから」くらいのことは言ってもらいたかったですね、成瀬には。誰もそんなこと聞かないか。

この「娘・妻・母」は、ビデオで通して1回見たあとに巻き戻して、“道”ショットだけ繰り返し見ちゃいました。“道”が出てくるところ以外は早回しにして。
特筆もので気持ち良かったのは、原節子と宝田明と団令子たちが、仲代達矢がワインの醸造技師やってる甲府のぶどう園に行った時のシーン。宝田明が8oカメラを持参して、みんなでふざけながら撮影するんですが、その時の“道”が出てくるカット。これが気持ち良い。その後に、三益愛子演じる母の還暦祝いの席で、この時撮ったフィルムの上映会をやるんですが、そのフィルムの中に出てくる“道”も気持ち良い。特に、原節子と仲代達矢の仲がちょっと怪しいっていうんで細工したフィルムに出てくる“道”。草むらの真中に細い道があって、木が1本立ってるところを縦の構図で捉えた画面。これは最高に気持ち良かったです。

なんか、こうやって書いていて、果たして人に伝わるのかどうかめちゃくちゃ不安になってきましたよ。早回しして女の裸のカットだけを探すかのように、“道”を探して舌なめずりしながら観てる図っていうのは、単にアホにしか思われないかもしれないっすねえ。

成瀬の作品から“道”ショットだけを集めたダイジェスト版を誰か作ってくれないかなぁ。
誰も作ってくれないだろうから、20年くらいかけて自分で作りますか。ライフワークだライフワーク。それで老後の楽しみにしますよ。

(オイカワ)